第三章 新しい被覆素材を探せ⑤
新たな被覆線として選んだポリエチレンアイオノマー被覆も、一朝一夕で被覆できるわけではありませんでした。ポリエチレンアイオノマー樹脂は、身近ではゴルフボールの表皮に使われ、非常に弾力性と柔軟性に富んだ樹脂です。先ず、この樹脂を被覆する上で問題となったのは、溶かした際の強い粘り気でした。例えば、樹脂が吐出口から想定した以上に流れ出にくく、突然、吐出が止まることがあり、また一方では、被覆の表面が凹凸と波打つことがありました。粘り気のある樹脂の取扱いに苦慮し、安定して被覆できない状況が長く続いたのです。さらに最も困難だったのは、亜鉛めっき4種以上または亜鉛・アルミ合金めっきの心線への被覆でした。これらの心線は、めっき厚が厚いため表面には見た目にはわかりにくい凹凸がたくさんあります。柔軟性と密着力が強いアイオノマー樹脂では、その凹凸がより鮮明に表面へ浮き出て目立ってしまい、製品としては使えないような状況にもなりました。この課題は、社内の製造設備の改良だけでなく、めっきを施す心線メーカーにも協力いただき、トライアンドエラーの改良を繰り返した末、安定した新しい被覆方法にたどり着きました。そうして、世界で初めてポリエチレンアイオノマー樹脂の被覆線の開発に成功したのです。
ポリエチレンアイオノマー樹脂被覆鉄線は、開発から30年経った現在においても他のメーカーで作ることができない、トワロンのオンリーワン商品となりました。(つづく)
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